ゆずれない想い




次の日、あたしの方が授業が早く終わったので、迎えに来てもらうのも悪いと思い、時間つぶしも兼ねて晃くんの大学に出向いていた。

晃くんはやっぱり長期間休んでいたようで、担当教授に今後の話をしに行っていた。
大学復帰するようであたしはほっとした。これでまた一歩前進、かな?


その間あたしは構内のカフェテリアで待つことにした。



それにしても・・・


ひ、人の大学って何だか緊張しちゃうなぁ・・・。
それにこの大学ってあたしの大学とは大違いなほど、豪華だし。
世界が違うって感じ・・・あたし、浮いてない・・よね?


晃くん、早く来ないかなぁ・・・。




ソワソワしながら待っていると、肩をぽんっと叩かれた。
あたしは晃くんだと思い、疑うこともなく振り返った。

「お疲れ・・・!?」



見上げた先にいたのはいつかの女の人だった。


「やっぱり、あなたね・・。まだ晃のそばをウロウロしてたの?今せっかく晃も吹っ切れつつあるのに邪魔しないでくれる?あなたがいると、晃はまた思い出に逃げてしまうかもしれないじゃない!あなたのフルートで・・・」

彼女は振り向いたあたしに向かってその胸のうちを明かした。





彼女の言うことは一理ある。
なぜなら彼は相変わらず哀愁漂う笑顔しか見せないから―――――――


たしかに彼には若干の変化も見られる。大学も行く気になってくれたみたいだし、『月の光』を聞いて涙を流すこともない。

でもそれはあたしの前でだけかもしれない。
1人になったらまた悲しみに打ちひしがれているのかもしれない。
例え今は本当にいい方向に向かっていたとしても、いつまた過去を振り返ってしまうかわからない。



「わかったなら、おとなしくあたしの忠告を聞いて頂戴」

でも・・・・

「できません」
「は?」


「あなたの言いたいことはよくわかります。でも、あたしだって気持ちはあなたと一緒なんです」
「だったら・・・!」


「だけど!・・・あたしは、過去から逃げて欲しくもない。過去から目を背けていたら結局ずっと過去に縛られてしまう・・・・。あたしは過去は過去として受け入れて欲しいんです。その上で現実を生きて欲しいから」
「・・・・・・・」

「だから、あたし彼から離れたりしません」


そう言い切った矢先、彼女は踵を返して去ってしまった。





はぁぁぁぁ、何か一気に疲れたかも・・・。

でも、言ったことに嘘は一つもない。
それだけははっきりと言える。
後悔も・・・ない。





突然ケータイの着信音がなって思わずびくっとなった。
着信画面を見ると晃くんからだった。

「もしもし、話、終わったの?」
『ああ、やっと終わったよ。待たせて悪かったな。今どこにいる?』
「お疲れ様。今は正門近くのカフェテリアにいるよ」
『わかった、すぐ行く』

待ってるね と言おうとしたときには電話はもう切れていた。


もう・・・せっかちだなぁ・・・・。

でもそれだけ急いでくれてるってこと、かな?
それはちょっと・・いや、だいぶ嬉しいかも。






5分もたたないうちに晃くんはカフェテリアに現れた。

「待たせたな。悪い、こんなに延びると思わなくて・・・」
「全然いいよぉ。むしろ人の大学なんてなかなか来ないから楽しかったよ。それよりどうだった?」

あたしの問いに彼はぽんっと頭を叩いた。
とても優しく。

「心配、かけたな。大丈夫だから」
「そっか・・・よかった。でも後悔はない・・?」

あたしの言葉に少し間をおいて彼は答えた。
「何事もやってみなきゃわからない、だろ?」


その言葉にあたしは嬉しくて跳ね上がりそうだった。

あたしの言いたいこと、ちゃんと伝わってたんだぁ。



自然と笑顔がこぼれる。




「よし、じゃぁ行くか」
「あ、うん。そういえばどこ行くの?」

その問いに彼は笑顔を返しただけだった。