ざわめく心
日曜日。 あたしは少し寝坊してしまった。 いつもあたしの方が先にいるから、今日はいないと思って帰っちゃうかも・・・。 い、急がなきゃ! 足があんまり速くないあたしは、これ以上無理っていうほど急いだ。全速力の勢いで走った。 ようやく公園が見えてきてほっとしたら、思い出したように苦しくなってきた。 ハァ、ハァ、ハァ〜。 や・・やっぱり、突然の激しい、運動は、堪えるなぁ〜・・・・。 ついつい走りを止めて歩き出してしまった。 まぁ、この公園の出入り口はここだけだから、もし晃くんが帰ろうとしても絶対すれ違うはずだしね。 そして今度は景色を楽しみながら歩き出した。 そしてふと最近を振り返っていた。 今までこんなに公園に行くこと、フルートを吹くことを待ちきれない思いでいただろうか? もちろんフルートは好きだしこの公園も好きだ。 でも今はあの頃にはなかった想いが確実に存在している。 それはもちろん晃の存在である。 先生はあたしの音が変わったと言ってた。 それがもし本当ならそれは晃くんが原因なのかもしれない。 何となくそんな気がするのだ。 「・・・・・!!・・・・・・!」 並木道の入り口に差し掛かったとき不意に誰かの声がした。 ん、何だろ・・・誰か喧嘩でもしてるのかな? 好奇心を刺激されたあたしは声のする方に向かった。 「いつまでそうしてるつもりなのよ、晃!」 え・・・・晃って、晃くん? ・・・・・・あ〜〜ダメだ、影になってよく見えない。 「もう・・・もうあの子はここにいないんだよ!」 「・・・・・・」 「いい加減ちゃんと現実を見て!ちゃんと今を生きてよ・・・」 「お前に・・・お前に何が分かるって言うんだ!!」 !! やっぱり、晃くんの声だ―――― これは聞いちゃいけない、立ち聞きなんてしちゃいけない・・・ そう思ったけど、あたしの足は地面に張り付いて動いてはくれなかった。 「もう、俺のことはほっといてくれ」 そういうと晃くんはその場を去っていった。 「・・・・私が、いるじゃない・・・・」 その場に残された女の人がポツリと呟いた。 よく分からなかったけど、修羅場・・だったのかな。 いたたまれなくなったあたしはやっと言うことを聞いてくれるようになった足を動かしてその場を離れようと向きを変えた瞬間、 ――――パキッ―――― しまった!木の枝、踏んじゃった・・・。 背中に痛いほどの視線を感じたあたしは仕方なく振り返った。 取り残された彼女がじっとこちらを見ていた。 「・・・すみません。あたし、晃くんの友達っていうか、知り合いで・・つい聞いちゃいました」 「・・・そう。それ、あなたも楽器を?」 あたしの手の中にあるフルートのケースを見て彼女が言った。 「あ、はい。・・・晃くんはいつもあたしの練習聞いてくれてて・・・・」 そういった途端、彼女の顔色が変わった。 「今の話、聞いていたなら少しは事情が分かるでしょう?私は彼に今を生きて欲しいの。でも音楽は晃を思い出に縛り付けてしまう・・・。彼に思い出は優しすぎるのよ・・・・。お願い、彼から離れて頂戴」 「そんな・・・・」 「私が言いたいのはそれだけ。それじゃ」 そう言うと彼女は歩き出した。 その場に1人残されたあたしは、しばらくそこから動けなかった。 それから数日後、突然授業が休講になりあたしは気分転換も兼ねて公園の並木道に来ていた。 あれからあの人の言葉が頭の中をぐるぐる回っている。 でもちっともまとまらない―――――― あの子って誰? もうここにはいないってどういうこと? 音楽が晃くんを過去に縛り付ける? ほっといてくれという晃くんの言葉はあの女の人の言葉を肯定しているという意味にしか思えない。 そして気になっていた晃の影を帯びた笑顔。 考えれば考えるほど思考は悪いほうへと向かってしまう。 その考えを取り除きたくて考え直しても結局は同じことの繰り返し。 しばらく歩いているといつもの場所に見慣れた姿を見つけた。 晃くんだ・・・。 どうしているんだろう・・・。 今日は平日で、学校があるはず。 もしかして、大学・・・行ってないの? 毎日ここに来ているの? ―――――彼に今を生きて欲しいの――――― 繰り返される彼女の言葉。 晃くん、あなたは思い出の中に生きているの? |