明かされた真実




“・・・・そんなの・・聞きたくないっ!!”



沙絵からの強い拒絶の言葉。
俺は沙絵に嫌われてしまったのだろうか?




確かにそんな予感はあった。
ここしばらくの間沙絵と連絡が取れなかったことがその証拠だ。
最初はただ単にタイミングが悪かっただけだと思っていたが、2度3度と続くうちに不安は確信に変わった。


もしかして・・・避けられてる?




だけど俺には沙絵を責める権利なんてない。
なぜなら最初に沙絵を避けたのは他でもない俺なのだから。





沙絵と佐倉が並んで歩く姿。
それを見た瞬間から歯車は狂いだしていたのかもしれない・・・。


次の日公園で沙絵と会ったとき、俺は逃げたんだ。
沙絵からあいつの話を聞きたくなくて。



不安だったんだ。
あいつの自信満々の姿が。
沙絵があいつに好意を持っていることが。


そこに恋愛感情があるかどうかまでは分からないが、少なくとも圭介の方にはあるのだ。
そんな2人が夜の道で肩を寄せ合って歩いていた。




“それなら余計好都合だ。後で後悔するなよ?”


蘇る言葉。自信たっぷりといった圭介の言い方。
そこには晃のように不安がさ迷う様子は微塵もなかった。






誰も何も悪くない。
ただ晃1人が戸惑っていた。
なぜこんなにも不安になるのか。



自分は沙絵の友達であって恋人ではないと言うのに――――――





そう、ただの友人であるならば、こんなにも心乱されるはずがない。
だとすると・・・




もしかして、俺は沙絵のことを・・・・?






不意に浮かんだ疑問。





今感じているものは嫉妬?





晃の中で思考が悲鳴をあげながらそのスピードを増していく。






ただ俺が思い出にしがみついていただけで、俺の周りは着々と時を重ねていく。
そうして出会った沙絵に、俺はもしかしてすでに・・・。



俺は、好きなのかも知れない
沙絵のことを・・・。






だからこんなにも苦しいのだ。
沙絵が自分ではない男と楽しそうにしていたことが、辛い・・・。





でも、今更気がついても、もう遅い。

なぜなら俺と沙絵を繋いでいた細い糸は切れてしまったのだから。
俺が切ったのか、沙絵が切ったのか。
そんなことは関係ない。
どちらにせよ、きっかけを作ったのは俺だった。
たとえ沙絵が佐倉を選ぼうとも、俺に文句を言える筋合いはない・・・・・・。




俺にもう少し勇気があったなら。
あの時あいつに佐倉のことを聞く勇気があれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。


・・・・・・・都合がよすぎるんだ。
一度避けておきながら、離れていくことを拒むなんて・・・・。


けど、心が張り裂けそうに痛い。
俺の中で沙絵の存在がこんなにも大きくなっていたなんて。



俺は・・・どうしたらいいんだろう・・・・・・・












どれくらい公園にいたのか、辺りは次第に暗くなり始めていた。
晃は重い腰をやっとの思いで持ち上げ、帰り道へと歩き出した。




その足を止めた運命の更なる悪戯、携帯電話の着信音が鳴り響いた。






何気なしにディスプレイを見ると、そこには二度と表れることなどないと思っていた名前があった。

鳴り続ける着信音に、恐る恐る通話ボタンを押した。
そっと耳元に携帯を当てると、相手も戸惑っている様子が窺えた。



「もしもし・・・・」

『あ・・・・久しぶり・・・・桐谷・・です』




気まずさから、お互いに相手が何か言うのを待ち、しばらく沈黙が流れた。
それを打ち砕いたのは奈緒だった。





『・・・番号、変わってないんだね』
「お前こそ・・もうかかってくることはないと思ってた・・・・」
『そうだよね、どの面下げてって感じだよね・・・今更・・・・・』

あはは、と苦笑いを浮かべながら奈緒は言った。
その声に晃は何故だか心苦しくなった。



「いや、こっちこそ・・・。俺、ずっと謝りたかったんだ。お前に・・・」
『ううん、謝りたかったのは、あたしの方なの・・・・晃くん、やっぱりここにいた・・・』


真意のつかめない言葉と、二重に聞こえてくる声に晃は思わずふり返った。
そこには長年想いを寄せた愛らしい少女がいた。
目にいっぱいの涙をため、携帯電話をギュッと握り締めていた。


突然の出来事に晃は周りの状況が理解できなかった。





そもそも、なぜ奈緒が自分に電話してきたのか。
どうして自分に謝りたいのか。
どうして今目の前にいるのか・・・・。




晃の脳裏に浮かぶ疑問に答えるかのように奈緒が話し出した。
遠い過去の思い出を。






「あたしね、不安だったんだ。晃くんに近づけば近づくほど、どんどん晃くんとの距離を感じて・・・どうにかして、繋ぎ止めたかったの・・・・・」



周りに壁を作って誰にも踏み込ませない、そんな領域を晃は持っていた。
晃の一番近くにいるのは自分なんだと自負していた奈緒にとって、自分に対しても作られていた壁は何よりの障害だった。
そして、どうにかしてその壁を取り払いたいと必死だったのだ。




「だからね、あたし試したの・・・。晃くんにとってあたしがどういう存在なのかを知りたくて・・・・」







人の気持ちとは複雑で、思い通りに動かせる人なんていない。
自分の気持ちでさえコントロールしきれなければ、相手の気持ちを知る術もない。
信じられなくなってしまったらおしまいで、疑い出したらきりがなかった。



それでも人は人を求めるから、糸は絡まっていくのだ。
きつく入り組んだ糸は、いつしかその身を食い込み始める。








気づいたときには、もう解けないほどに――――――










「好きな人がいるなんて言って、嘘の相談をしてたの・・・・・・・・」