けじめ




始まりはいつだったのだろう。



最初は可愛い子だなくらいにしか思っていなかった。
今まで俺の周りにいた子たちとはちょっと雰囲気も違ったし。
だから少し興味があったのだろう。


でも接していくうちに彼女の素直な心に惹かれていった。
あのまっすぐな目に見つめられていたい。
彼女の綺麗な心に“俺”という存在を植えつけたい。
そう思うようになったんだ・・・。



彼女、矢本美里は俺からすれば少し珍しい子だった。



誰と話すときもまっすぐ相手の目を見て話す。
俺をまっすぐ見てくれる。
それはとても安心できることだった。
俺という存在を認められたような気がして・・・。

今まで周りにいた女の子のほとんどはいかに自分を良く見せるかに必死になっていた。
だからいつも少し不安だったのだ。
俺はここにいる意味があるのだろうか・・・?「俺」じゃなくてもいいのでは・・・・。
そんな思いがいつもついて回っていた。


そんなときに出会ったからこそ俺が彼女に惹かれるのは当然だったのかもしれない。
俺は彼女のような人を求めていたのだから・・・。





そしてこれからどうやって近づいていこうと考えていたときに思わぬことが起こったのだ。
俺のことを好きだという彼女。
あまりの喜びに俺はただ立ち尽くしていた。
そして気がつけば彼女を抱きしめ、キスをしていたんだ。


そのあとすぐにでも自分の気持ちを彼女に打ち明けたいと思ったけれど、それはできなかった。
その前にしなければいけないことがあったからだ。




今まで適当に過ごしてきた俺ははっきりしない関係の女が多かったのだ。
先にそっちを片付けなければ彼女に気持ちを伝える資格はないと思い、一人ひとりに連絡を取っていた。
好きな人ができたからもう会わない、と・・・。
そして、それもついにあと1人になった。


最後の1人、倉石いづみだ。

いづみとは付き合っていた時期もあった。
彼女と一緒にいるのはとても楽しかった。
彼女が俺のことを本当に好きなことに薄々気付き別れたのだが、それでも同じサークル所属ということで付き合いは続いていた。

けど、そろそろけじめをつけなければいけないのだ。・・・いづみのためにも。


そしていづみと約束を取り付けていた場所へと車を飛ばしていた。




「和希・・」

「よう、待たせて悪かったな・・・・」

「ううん・・・」

「あのな・・いづみ・・」

「言わないで!・・実夏に、聞いた・・。いつか、こんな日がくるんじゃないかなって思ってた。・・・でも、あたし、まだ和希のことが好き・・。 ねぇ、どうしても、ダメ?あたしだってこんなに和希のことが好きなんだよ・・・?」

「・・・・・ごめん、いづみ。俺見つけたんだ。全てを捨てでも手に入れたいものを」

「お願い!もう一度だけ、あたしにもチャンスを頂戴・・・」


そう言っていづみは和希にしがみついた。
しばらくの沈黙のあと再び和希が口を開いた。


「ごめんな、今こうやっていづみに泣かれても俺、彼女のことしか頭にないんだ。 俺はそんなヤツなんだよ・・・。お前を幸せに出来るやつは俺じゃないんだ。 ・・・俺を幸せに出来るのも、いづみじゃない」




これ以上期待を持たせてはいけない。そんな気持ちから和希は敢えてはっきりと拒絶の言葉を 口にした。女としていづみを好きにはなれないが、友達としては和希はいづみのことをとても大事 に思っていた。だからこそこれ以上いづみを傷つけたくなかった。


そしてその想いはいづみも知っていたのだ。
和希が自分のことを友達として、とても大事に思ってくれていることを・・・。



「そっか・・・。どうやら本気、みたいね。」



そう言って和希から離れたいづみの頬に涙は流れていなかった。


「冗談よ。こっちだって今更和希とどうこうしたいなんて思ってないっての。 ちょっとからかっただけよ。でも・・・それだけ大事にしたい子に出会えてよかったね。 女友達として、元彼女として、祝福するよ。・・・おめでとう、和希。彼女と幸せにね」


いづみは静かに微笑んでいた。
いづみは自分のわがままを受け入れてくれたのだ。
和希に罪悪感を感じさせないため、和希の彼女に余計な気を使わせないため、 友達でいることを・・・。
そんな残酷なことを望んだ自分が恥ずかしく、そんな残酷なことを受け入れてくれたいづみに 感謝しきれず、和希はこう言った。



「お前やっぱ最高の女だぜ。最高の友達だ・・・」



「当たり前でしょ?あたしを誰だと思ってんのよ。これでも2年のマドンナなんだから」