花火の夜に




「よ〜し次打ち上げ花火行くぜ〜〜〜」

「おし、いけいけ〜〜!!」


海岸で花火を楽しむ大学生の姿。そこに首を傾げるものがいた。



・・・来るって言ってたのに、美里なんでいないのかしら。
でも和希さんもいないってことは今頃2人でいるのかもしれないしな〜。





「唯ちゃん花火楽しんでる〜?」

声をかけてきたのは新歓コンパのときに、“賭け”をしている人だった。
あまり接点はなかったが、かっこいい部類に入るほうだろう。
ただそれを意識してか、カッコつけすぎなのが唯的には受け付けないのだ。


「唯ちゃんとちゃんと話すの初めてだよね。でも俺会ったときから唯ちゃんのことけっこう気に入ってたんだ。どう、今度俺と一緒に遊んでみない?」



・・・やっぱりきたか。

この手のタイプって真面目に断るとすぐにへそ曲げちゃうのよね〜・・・。
今後のことを考えると、あんまり先輩と揉めたくないしな〜。



そこまで考えて唯は極上の笑顔を向けて話し出す。

「え〜すごい嬉しいです〜〜。あたしも先輩のこと気になってたんですよ。でも残念だな〜。 実は3ヶ月先まで予定がうまってて・・・。やっぱり先約を断るのも申し訳ないし、 3ヵ月後でもいいですか?」


もちろん真っ赤な嘘である。
おお〜、固まってる固まってる。



「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあまた今度声かけるよ」

といいながらそそくさと去っていった。


ていうか普通信じないでしょ・・・・・。
でもあんな嘘が通じるほどあたしのことを誤解してくれるなんて、フフ気分はいいわね。





「いや〜見事な撃退法だね。普通は通用しないだろうけど・・・」



突然の声に驚いて振り返るとそこには玲がいた。

「聞いてたんですか〜?恥ずかしいなぁ、もう・・・」

「いつ助けに入ろうかなあと思ってたんだけど、その必要もなかったみたいだしね」

「玲さんが助けてくれたら花も持てたたのに〜・・・。 あ、それより今日なんで和希さん来てないか知ってますか?」

「和希?いや、聞いてないけど。どうせまた女の子と遊びに行ってるんでしょ」

「やっぱり和希さんって女遊びが激しいタイプだったんだ・・。 何となくそんな感じはしてたんですけどね」



「和希なら、たぶん今頃実夏と一緒よ。さっき実夏から嫌味〜なメールきたから」


「いづみ」
「いづみさん!」


気付けば今度はいづみが真後ろにいた。
なんでみんな突然人の周りにいるのかしら・・・。


「嫌味なメールって?」


と問う玲にいづみは携帯を開きながらぶっきらぼうに答えた。

「“悪いわね、いづみ。今日あたしと会いたいんですって。
やっぱりあたしのほうが和希もいいんじゃないかしら?”って」

「もしかして三角関係なんですか?」

「三角っていうか、複雑な関係なのよ。でも珍しいわね、和希から実夏を誘うなんてめったにないのに・・。 いつもは実夏が一方的に近寄ってるから」

「・・・つまりは和希さんをめぐってるって訳ですね」

「でも、最近の和希ちょっと変わったような気がするの。時々、とっても優しい顔することがあって・・・」

「いづみはちょっと不安?」

「ちょっと、ね」


いづみは苦笑いを浮かべていた。


それだけでわかってしまった。この人は本気なんだ。本気で和希さんを好きなんだ・・・。
美里、あんたやっかいな人を好きになっちゃったみたいね。






♪〜〜♪〜〜〜〜〜♪〜♪〜


ふいに携帯の着信がなり、いづみがディスプレイを見て驚いた顔をした。


「実夏からだわ・・。どうしたのかしら・・」


ピッ


「もしもし、何よわざわざ電話してまで嫌味言いたくなったの?・・・実夏? 泣いてる・・の?ちょっとどうしたのよ?泣いてたらわかんないじゃない・・・。 ・・・・・・・・え?・・・・・そ、そう・・。うん、わかったから、しっかりしなさい。 うん、じゃあね・・」


電話を切ったいづみはどことなく青い顔をしていて思わず息を呑んでしまった。


「大丈夫・・ですか?」

「実夏、完全に振られたんだって・・」

「え・・・。それって・・?」

「和希ってね、軽いようだけど、自分から追うことってしたことないのよ。 優しいから、あたしとか実夏とかを拒んだりしないの。・・あたしが最後、なんだわ・・・。 ごめん、今日はもう帰るわ・・」



放心状態で話すいづみの話は唯にはよくわからなかった。
ただ、いづみにとって何かとてつもないことが起こったのだろうということは理解できた。