思わぬ告白




「へぇ〜〜〜〜。何か急展開、って感じね」

「急、展開・・・ね・・。そう思っていいんだよね?何か突然で信じられない・・・」

「それから話したりしてないの?」

「・・・・うん・・」



突然のキスから早くも1週間がたとうとしていた。

その間何度も連絡を取ろうとしたけれど、一時の気の迷い、とか言われたらどうしよう・・・ そんな思いが膨らんで結局一度も連絡をしていなかった。

そして和希から連絡が来ることもなかった。
そのことが美里の不安をいっそう掻き立てるのだ。




「ま、何にせよ一回ちゃんと話さなきゃダメよ。今日の花火、美里も行くんでしょ?」

「そのつもり。いい加減ちゃんと向き合わなきゃいけないのもわかってるから・・・」





唯と別れて美里は次の授業の場所に向かっていた。
食堂の前を通りかかったとき丁度和希が出てきた。




夜会えるけど、今のほうが2人っきりで話せるかも・・・。




そう思って近づこうとしたとき、和希が1人ではないことに初めて気がついた。


見たことのない女の人。
肩までの髪にゆるくウェーブがかかっていて、和希と並んでも引け目のない美人。

女の人の手は和希の腕へと伸ばされていて、傍から見ていたら完全に恋人同士。




恋人同士?



あの2人は一体、何?




っていうよりもあたしと和希さんの関係こそ何なんだろう?



もしかして・・・、何て思っていたけどやっぱりあれは何かの間違いだったのだろうか・・・。




ふいに恭一の言葉が蘇る。

―――――軽いヤツなんだよ―――――




やっぱりそうなの?




恭一が言ったとおり和希さんは軽い人なの?





無意識のうちに美里は恭一に電話をしていた。


「もしもし?どうした、美里?」

「・・この前の話、和希さんの話・・詳しく聞かせてほしいんだけど・・・」

「・・・・わかった」







夜、あたしと恭一は結局サークルの花火に参加することなく、サークル棟にいた。

今日花火に行って和希に会ったところで、きっと何も話せないだろう、
それなら恭一に話を聞いた方がいい、そう思ったのだ。

本来旅行サークルに与えられた部屋はないのだが、
平日の夜は必ずといっていいほどどこかの部屋が空いていた。
そのくらい使用率の低いサークル棟なのである。



「で、和希さんの何を聞きたいの?」

「高校時代、あんまりいい噂聞かなかったって言ってたでしょ?どんな噂だったの?」


恭一は少し考えたように黙り込んで、それから話し出した。

「俺が聞いた噂では、・・・来るもの拒まず去るもの追わず、みたいな感じだったな。 あの人の周りにはいつも女がいて、でも誰かを特別好きな感じは見て取れない。 あの人にとっては女なんて全部一緒なんだよ」



淡い期待も全て砕かれたような気分だった。




思い返せば、和希さんがあたしを好きだという事実はどこにもない。

好きだ、って言われたわけではないし、その後の連絡だって何もない。
そもそも一回一緒に遊びに行っただけだし、自分が特別に思われてる気も全くしない。



つまり和希さんにとってはあたしもさっきの女の人も変わらないってことなのだ。


あたしが告白しても、あの人が告白しても、和希さんは同じようにキスをする。
それがたまたまあたしだったということ。
ただ、それだけ。



気付けばあたしの頬には涙が流れていた。


「勘違い、だったんだ。1人で浮かれてたってだけのことだったんだ。 バカみたい・・・キス、されただけで舞い上がっちゃって・・・・」

「だから、やめろって!!美里にあいつは似合わない。 俺、お前がつらそうなの見てるの嫌なんだよ!・・・・・俺じゃダメか?」

「え・・・・」

「お前が和希さんを見ていたように俺もお前を見てきたんだ。 和希さんよりお前を幸せにする自信がある」

そういって恭一は美里を抱きしめた。



「俺、美里が好きだ」




突然の恭一の告白に美里は戸惑った。
恭一が自分のことを好きだなんて、それこそ思いもしないことだった。


恭一はとてもいいヤツだと思う。
まだ知り合って間もないけれど、人のことにも親身になってくれるし、人を突き放すようなことはしない。



こんな人と付き合えたら、大事にされて、とても幸せだと思う。

けれど、美里はそんなに気持ちの切り替えが早いタイプではないのだ。




「ダメ・・だよ。そんなの恭一に悪い。 つらいからって恭一に頼ったら、あたし、自分で自分を許せなくなる」



そう言いながら、恭一から離れようと力を入れる。
けれど、男の力に敵うわけもなく、さらに強く抱きしめられる。


「もっと頼れよ!・・・最初は俺のこと利用したっていい。 和希さんを忘れるために俺のとこに来たって、俺はお前を責めたりしない。 俺が、忘れさせてやるから」


恭一の言葉に美里の涙はさらに溢れ出す。



単純に、これだけ人に好かれるということが嬉しかった。
今までにここまで人に求められたことがあっただろうか?


恭一の甘い誘いについ寄りかかってしまいそうになる。



・・・でも・・・・・・


ありったけの力を込めて、恭一と自分の身体を引き離す。


「あたし、恭一のことは好きだよ。好きって言ってくれてすごく嬉しい。 でも、でもね、あたしの中ではやっぱり和希さんが重いの・・・。 傷ついたっていい。いっぱい泣いたって、いい・・。 だからもう少し頑張りたいの。自分の気持ちを、大事にしたい」



沈黙が流れた。その沈黙が美里には何時間にも感じられた。

恭一が美里の答えを受け入れようと受け入れまいと、美里の気持ちは変わらない。
それでも恭一が美里の出す答えをどう受け取るのか、美里は気になったのだ。



「そう・・か・・・。俺、応援なんてしないから・・。俺の気持ちは変わらない」

「うん・・・。それでも頑張るから。 恭一がいつか応援してもいいって思えるように、あたし、頑張るから」



そう言って、あたしはサークル棟を出て行った。