自分の気持ち




サァァ――――



あたしはシャワーを浴びながら、今日一日を振り返っていた。


倉石いづみさん・・・・・。

和希さんの元カノ。

そう、元カノなんだから気にしなくていいはず、だけど・・・。

さらさらのロングヘアーにスラリと伸びた手足、整った顔立ち。 遠くから見ても目を引くような美人だった。

彼女がたとえ昔であったとしても、和希さんと付き合っていたというのは、それだけであたしには大打撃・・・。



とてもじゃないけど適わない。

あたしなんかじゃ見向きもされないかも・・・・・。





どうして好きになっちゃったんだろう。

好きって気持ちを自覚した途端、こんな絶望が襲ってくるなんて・・・・。


今頃、2人は何をしてるんだろう・・・・。











次の日、あたしは2現目からの授業のため、少し遅めにアパートを出た。
大学の近くにアパートを借りたので5分とかからずに大学に着いた。



まだ時間に余裕があったため学食で一休憩していると、見知った人物が近づいてきた。


「よぉ、この時間空きコマ?俺の授業、最初30分で終わっちゃってここで時間つぶしてたんだよね」

「おはよ、恭一。あたしもちょっと早く来すぎちゃって」


ふいに恭一があたしの顔に手を伸ばした。


「目、腫れてる。何かあった?」

「め、目立つかな?一応タオルで冷やしたんだけど・・・」

「いや、そこまで目立たないけど、いつもと顔がちょっと違ったから。言いたくないなら無理には聞かないけど、話すと楽になるかもよ?」

「・・・・たいしたことじゃないの。ただ好きな人の元カノを知っちゃって、ショックを受けてただけ。あは、笑えるでしょ?あたし、彼女でもなんでもないのに、勝手にショック受けちゃって」

「―――――和希さん?」

「・・・・・うん・・・」

「・・だから言ったじゃん、あいつはやめとけって。あいつは1人の女と真剣に付き合えるような男じゃない。高校時代だって・・・・・」

「・・・・・・え・・・それってどういう意味?高校時代が・・・何・・?」


恭一はバツの悪そうな顔をして言葉を続けた。



「1人の女と3ヶ月続いたことがない。軽いヤツなんだよ」







“軽いヤツ”かぁ〜・・・・。


やめるって決めてやめられるならあたしだってやめたいよ・・・・。
わざわざつらい思いしに行くなんて。



授業中そんなことを考えていたら、気付けば講義も終わっていた。
仕方なくあたしは次の講義に移動すべく準備をし始めた。

そのときふと隣に座ってた子達の会話が耳に入る。


「だから好きです、って言っちゃった。 だっていくら想ってたって伝わらなきゃ意味ないじゃん。こっからが勝負どころなのよね〜。 やっと彼女さんとおんなじ土俵に上がれたんだからガンガンいかなきゃ!」




まさに目から鱗という感じだった。



そっか・・・そうだよね。

伝えなきゃ始まらないんだ・・・・・。
自分で勝手に考えたって和希さんには何一つ伝わらないんだ。


自分の気持ち、伝えなきゃ!


伝えて、和希さんの出す答えを受け止めて、それから悩めばいいんだ。
もし恭一の言うことが本当だったとして、それはそのとき考えよう。


せっかく見つけた自分の気持ち、大事にしたい・・・。




そうと決まればいち早く伝えたい!
あたしはそんな衝動に駆られて、和希さんの携帯を鳴らしていた。



「美里ちゃん?どうしたの?」

「和希さん、今どこですか?会って話したいことがあるんですけど・・・。あ、授業終わってます?」

「授業は終わって、今は共通棟の1号館にいるけど・・・?」

「じゃぁ今から行きます!」

そういってあたしは駆け出した。



1号館に着くと、出入り口に和希さんが立っていた。

「あ、来た来た。っていうか急にどうしたの?何か急ぎの用?」

「急ぎの用っていうか、その・・・話・・が・あって・・・・」


いざ目の前にすると言葉が出てこない・・・。



あ〜〜〜ん、あたしのばかぁぁぁ!!
言うこと考えてから電話すればよかった〜〜・・・・・。



「えっとですね・・・その・・・なんていうか・・・・・」

「うん?どうしたの?」


だめだめだめだめ!
さっきの勢いはどーした!?
ここで言わなきゃ女じゃない!!!


「あたし!か、和希さんが好き!・・・です。何を突然って・・思う、かもしれないけど、 言わなきゃ、気持ち、伝えなきゃ、何も始まらないと思って・・。あ、でもだからって、 和希さんに今すぐ返事をして欲しいとかじゃなくて・・えっと、とりあえず知ってて欲しいっていうか・・・」


あたしは勢いまかせにまくしたてた。

和希さんの反応が怖くて顔を上げる余裕なんてなかったのだ。



あきれられちゃった・・・かな・・・・・・
でも、それはちゃんと覚悟していたはず。
ここから、はじめよう・・・。




瞬間、美里の身体はフワリと暖かいものに包まれた。
和希に抱きしめられていることに気付くのに時間がかかった。



迷惑がられることしか考えていなかった美里は今の状況にただ混乱するばかりだった。


けれど、抱きしめる和希の力は徐々に増していく。

「ありがとう。すごく・・・うれしいよ」

耳元で囁かれ、美里の頭は思考回路ストップ直前だった。



とどめは触れるだけの軽いキス。


そのあと美里はどうやって和希と別れ、アパートに帰ったのか記憶になかった。