きっかけのデート
本日、快晴。 あたしは鏡と何度もにらめっこしながら待ち合わせの5分前に家の前に立っていた。 ―――― 一緒に行く?―――― そんな和希さんの思いつきで今日という日が実現した。 見慣れた車が角を曲がってきた。 あたしはその車に駆け寄って素早く乗り込む。 「中で待ってれば良かったのに。暑かったでしょ?」 「全然!今日気持ちいい快晴ですよ?」 和希は微笑むと車を出した。 和希さんの横顔をあたしはちらっと盗み見た。 和希さんってきれいな顔してるよな〜・・・。 男の人なのに、綺麗って言葉がぴったりくる。 今日・・・どうして誘ってきたんだろう・・・・。 映画が見たいだけなら別にあたしじゃなくてもよかったんじゃ・・・。 それとも少しでも、ほんの少しだけでもあたしに興味を持ってくれてる? ってあたし何考えてんの!? たまたまに決まってるじゃん!! たまたまあたしが映画のポスターを見つけて、 たまたま一緒にいたのが和希さんで、 たまたま和希さんも見たい映画で・・・・ ・・・・自分で言ってて虚しくなってくるよ。 「見てて飽きないんだけどね、さっきから何百面相してるの?」 「!!? 顔に出てました?」 「うん、そりゃもうばっちり。さすがにちょっと心配になるよ?」 クスクス、と笑う和希さんとは反対にあたしは恥ずかしさでいっぱいになってしまった。 2人が今日見る映画はサスペンスアクションの映画である。 券を買うため列に並びながら和希が口を開いた。 「美里ちゃんがこの手の映画に興味を持つとは意外だったなぁ〜。もっと恋愛映画とかが好きなのかと思ってたよ」 「もちろん恋愛映画も好きなんですけど、サスペンスもけっこう好きなんですよね〜」 順番がまわってきて、券を買おうとすると、和希さんがあたしの動きを制した。 「一応先輩だからね〜、最初くらいは奢ってあげるよ」 すぐに断ったけど、結局和希さんの好意に甘える結果となった。 席に着き程なくして会場は暗くなり、スクリーンに映像が映し出された。 「おもしろかったぁ〜〜〜!!まさかあの人が黒幕だったなんて!」 「俺は途中で気付いたよ。あ、こいつ怪しい!って」 「ホントですか!?え〜悔しいな〜〜。あたしあの人は良い人だって信じてたのに〜・・・」 約2時間の映画も終わり、2人は思い思いの感想を言い合っていた。 「さて、美里ちゃんまだ時間あるの?」 「え?・・・あ、はい、ありますけど・・・?」 「よし、じゃせっかくだから喫茶店でも入ろうか」 和希さんの言葉につられてあたしたちは近くの海沿いにある、小さな喫茶店に入った。 和希さんはブラックのコーヒーを、あたしはミルクティーを注文した。 「和希さんってブラック飲めるんですね。あたしはどうしても飲めなくって・・・」 「お子様にはまだまだ苦いかもね」 「あ、ひどい!」 「うそうそ。ブラックは人によって受け付けなかったりするからね。別に良いんじゃない、そんなこと気にしなくても。逆に俺は紅茶苦手だしね。その紅茶独特の渋みってうかなんていうかが・・・ね」 そのとき、和希の携帯が鳴り響いた。 「いづみ、突然どうしたの?え?今はちょっと無理だな〜・・・。今晩なら付き合ってやれるけど・・・え?まさか、そんなんじゃないって。 にしてもお前もそんな用事で呼び出すなよな〜。はいはい、今晩付き合いますよ。じゃあまた夜に」 そういって和希は電話を切った。 「あの、急ぎの用事なら構いませんよ?」 「ん?ああ、いいのいいの。どうせいつもの愚痴の付き合いなんだから。あ、今の旅行サークルのヤツだよ。倉石いづみっての。この前のミーティングにも来てたし」 そう言われてあの日のメンバーを思い起こす。 そういえば、和希さんの隣に女の人がいた。 あの人がいづみさんなのかな? あの日いづみが買いだしの時を除いて、 片時も和希のそばを離れていなかったことを思い出し、言葉がついて出る。 「あの人は和希さんの彼女?」 和希は驚いたように目を見開いたが、すぐに笑って否定した。 「違う違う。ただの友達だよ」 その言葉を聞いて美里はふっと緊張感がほぐれたのを感じた。 次の言葉を聞くまでは・・・。 「まあ昔はちょっと付き合ってたけどね」 瞬間、言いようのない圧力を体中に感じた。 そして、美里は悟った。 自分が和希を先輩として以上に見ていることを・・・。 その後30分ほどして2人は喫茶店を後にし、和希が美里を家まで送っていった。 |