2人で・・・




7月も半ばに差し掛かり、そろそろ前期のテスト週間が始まろうとしていた。


この時期は図書館の利用率が増え、席も中々見つけられないため空き教室や学食で勉強する 学生が頻繁に見られるようになる。
美里も例外ではなく、共通棟の空き教室でせっせとノートを暗記していた。
どんなにつらい状況でもテストは待ってはくれないのだ。



「あ〜〜〜〜もう終わんないよぉぉぉ!! 大体前期の範囲を一気にテストするなんて無理に決まってるんだって〜〜」


大きな独り言を呟きながら美里は目の前のノートに突っ伏した。




「かーのじょ!そんなに根詰めてやらずにちょっとは休憩したほうがいいって〜」


突然頭上から降ってきた言葉に驚いて美里は顔を上げた。
すると自分の周りを3人の男が取り囲んでいた。おそらくこの大学の学生なのだろう。
ニヤニヤと笑いながら、美里の手をとった。

「ちょっと俺らと休憩しようよ。その方が勉強もはかどるよ?」

「け、けっこうです!離してください!」

「お〜コワ。ほらほらそんな怒っちゃ可愛い顔が台無しだよ?さ、休憩行こう行こう」

「ちょ、ちょっと・・・」

手を引き離そうとしたが残りの男に後ろから引きずられてしまい身動きが取れなくなってしまった。



ヤダヤダヤダヤダ!!
怖いっっ・・・。



無理やり引っ張られて出口まで来たとき、丁度この教室に入ろうとしていた人が立ちふさがる形になった。
後ろ向きに引きずられていたあたしは突然止まったので倒れそうになった。
そこをグイッと誰かにつかまれた。


「ちょっとちょっと、これ俺のだから、勝手に触んないでくれる?」


その声に美里は驚いた。
な、なんで―――!?


そのまま和希は美里を自分の胸の中に捕まえた。

「はぁ!?ふざけんなよ。その子は俺らが先に見つけたんだぜ!!」

「いいから・・俺が笑ってるうちに消えなよ」


もはや和希の目は笑っていなかった。
その目に恐れをなしたのか男たちはそそくさと立ち去った。


「んだよ、そんな女、くれてやるっ!」


バタン、と音を立てて扉が閉まった。


「美里ちゃん、大丈夫?唯ちゃんに聞いたらここだって教えてもらって・・。にしても気をつけなよ?」


和希はそのまま美里を後ろからギュッと抱きしめた。
瞬間、緊張の糸が切れて美里は思わず泣き出してしまった。




「―――ルイ・・・」

「・・え?」

「こんな時にこんな風に助けるなんてズルイ! あたしは和希さんが好きだから、こんなちょっとしたことでも嬉しくて、嬉しすぎて・・・ ますます好きになっちゃう・・・」


「いいよ、俺のことどんどん好きになってよ・・・。 俺、もうやばいくらい美里に溺れてるんだから」

「え・・・」


美里が呆然としていると、肩をつかまれ、和希のほうに向き直された。


「遅くなってごめんね。美里に気持ちを伝える前に、やらなきゃいけないことがいろいろあって・・・。 美里を不安にさせちゃったみたいだね」


和希は苦笑いを浮かべていた。


「その言葉、信じていいの・・・?」

「信じて・・俺には美里しかいない。美里しか、いらない・・・」


そう言って和希は再び美里を抱きしめた。


「俺、今まで適当に女の子と付き合ってきたけど、いつもどっか冷めてた。 自分から追いかけてまで欲しいと思えるものがなかった。ここまで好きだと思える女は美里が 初めてだ・・・。だからどうか、俺のそばにいて欲しい・・・」


抱きしめる和希の手が心なしか震えていた。
それに気付き、思わず美里も和希を抱きしめ返していた。


「あたし、で、いいのなら・・・。でもあたし一度くっついたら中々離れませんよ?」

「いいよ、離すつもりなんてないから・・・・」




そして2人は少し離れると、どちらからともなく唇を重ねた―――
それはだんだん深さを増していき、美里は苦しくなってよろけそうになった。
が、そんな美里を和希は逃すまいと腰に手を回ししっかり抱き留めた。


十分に美里の唇を楽しんだ和希は少し離れて、
「今夜、家でテスト勉強する?」
と美里に持ちかけ、真っ赤になった彼女にそっぽを向かれてしまったのだった。









これから先もあたしたちは泣いたり笑ったり怒ったりしながら時を重ねていくだろう。
願わくばその隣にはいつもあなたがいますように。

あたしがあなたを思って流す涙を、拭うあなたの手がいつまでも―――