幼馴染の想い




それからのあたしたちは時間さえあれば2人でいるようになった。
身体を重ねるようになるのにもそう時間はかからなかった。
お互いに何かを忘れようとして必死だったのだ・・・。




ベッドで寄り添いながら、あたしはある疑問を玲にぶつけた。


「ねぇ、玲はどうしてあたしに忘れられない人がいるってわかったの?」

「そうだな・・・ホントはけっこうカンだったんだ。唯の目が、瞳が死んでるように見えてた気がして」

「瞳が、死んでた?」

「ああ。楽しそうにしてても瞳って全てを物語るんだよ。お前の瞳はどこか影を帯びてたから。 こいつ、俺と同じなのかなって思ったよ」

「そう・・・・・あたしね、昔大切な人を亡くしたの。ずっと辛かった。あたしのせいで死んだん だって。辛くて、苦しくて・・・。きっと誰かに見抜いて欲しかったんだと思う。 だから玲には感謝してる・・・」

「俺、何て言っていいかあんまりわかんないけど、とりあえず、今日まで良く頑張ったな」


頭をポンポンと軽く叩かれて思わず涙がこぼれそうになった。








夏も終わり、秋が来てそろそろ冬に入ろうかというころ、あたしたちの関係は相変わらず続いていた。

周囲から見れば幸せそうな仲睦まじいカップルにでも見えていただろう。
けれど実際はあのときの約束を忠実に守っているだけだった。
それでも唯の心は安らいでいた。玲が傍にいることで唯は満たされていたのだ。
それくらい2人の時間はたくさん、ありすぎるほどにあった。


その平和さは台風の前の静けさに似たものだった。





「唯ちゃん、玲ちゃんと本当に付き合ってるの?」


同じサークルの羽村百合。
彼女は玲の幼馴染でもあった。


「う、うん。一応そうだけど・・・」

「そっか・・・。薄々ね気付いてはいたんだ。玲ちゃんに女の人がいるんだろうなってこと。 家にいることも少なくなってたし。でも唯ちゃんでよかったかも・・・。 あたしもこれですっぱり諦められるよ」

「え・・・?」


百合はクスッと笑った。


「私ね、ずーっと前から玲ちゃんのことが好きだったの。玲ちゃんがあたしのことを妹み たいにしか思ってくれてなくても、玲ちゃんに彼女ができても、それでも玲ちゃんの一番 近くにいるのはあたしなんだって思ってた。でも今回はいつもと様子が違って、あたしか らは届かない遠くにいっちゃったみたいだから・・・。だから決心がついたの。 いい加減あたしも他の人を見つけなくちゃって。 だからあたしの分まで玲ちゃんを幸せにしてあげてね」


それだけ言うと百合は唯の前から去っていった。






唯はただ驚いた。


百合が玲を好きだったというのはもちろんだが、一番近くで見ていたと自負する百合が、 玲の大切な人が自分だと思っていることに・・・。



玲には忘れられないくらい大切な人がいる。
あの玲の様子からすれば相当深いつながりがあったのだろうと推測される。
その存在に百合が全く気付いていないというのは何だか腑に落ちない。
しかし、もしその存在を百合が知っていたなら、今自分にこんな告白はする必要がないはずだ。
なぜならその相手のときにもうすでにその告白をしているはずだからである。


それとも玲が言う『忘れられない人』というのは百合にさえ知られないように大事にしていた ということなのだろうか?



だがなぜ今回だけ玲の様子が違って見えたのだろう?
本来なら玲が本当に大切な人と過ごしていたときこそ違って見えていたはずではないのか?



一体玲の大切な人というのはどんな人なんだろう?
唯にはただただ疑問ばかりが残った。