過去の記憶




忘れられない人――――





あたしの初めての彼氏は中学のときの同級生だった。
お互いにとても好きあっていて幸せだった。
でもその幸せも長くは続かなかった。




突然の電話。

彼が交通事故に遭ったことを知ったのは、夜中だった。
あたしは一目散に病院に駆けつけたが、間に合わなかった。
スピード違反と飲酒運転の車が横断歩道を渡っていた彼に激突した。
ブレーキ跡もなかったそうだ―――
頭部損傷で病院に搬送されたときはもう手遅れだった。


彼がなぜ夜中に外出していたのかそのときのあたしには分からなかった。




それを知ったのは卒業のとき。
彼と仲の良かった友達がふと漏らした一言。


“あの公園には夜景スポットがあるんだって。あいつはそれを探してたんだ。お前に、 見せようとしてたんだ。”


その言葉を聞いて思い出した。
いつだったかデートの帰り道にクリスマスの予定を立てていたとき、あたしが何気なく言ったんだ。
“夜景が見えるところで2人でケーキでも食べたいね。”




あたしは人目も気にせず声をあげて泣いた。
あたしのせいで彼は死んだ。
あたしが言ったたった一言のために・・・。






それからあたしは人を本気で好きになることはなかった。
でもこの辛さを背負うのに一人でいるのは耐えられなかった。
その場しのぎの付き合いを始めるようになったのはこの頃だ。


そしていつの日か彼を思い出すことをやめた。あたしは辛さから逃げたのだ。




人に見抜かれたのは初めてだった。
美里でさえこんなあたしの一面は知らないだろう。
玲はどうしてわかったのだろう・・・。

今日初めてあたしは高柳玲という人をちゃんと見た気がする。




売り言葉に買い言葉みたいな感じで結局付き合うことになったけど、うまくいくのだろうか。
唯はただ漠然と不安を感じていた。