王子様よりあなたがいい (2)
森林公園、臨海公園・・・葉月の好きそうな場所を探すが、どこにもその姿はない。 時間は無常にも淡々と過ぎていく。 どうしよう。 もう心当たりなんてないよ・・・・・・。 疲労感はピークに達した。 日は沈みかけ海面はキラキラ光りだしている。 そういえば、あの日もこんなふうに綺麗な海だったな・・。 あっ・・・。 海・・・・葉月くん、好きそうかも・・・・。 それはもうすずが思いつく最後の場所だった。 海に着いた頃すずはもうすっかり息が上がってしまっていた。 誰もいない海にたどり着き、泣き出しそうだった。 ・・・・・ここにもいなかった・・・・・・・ 所詮、わたしと葉月くんの運命なんてこんなものなのかな・・・・ そんな弱音がつい口をついて出そうになる。 余計に涙が溢れてきそうになった。 「すず。どうしてここに・・・」 不意に聞こえてきた声。 今、すずが一番聞きたかった声。 すずは振り向きながら葉月の胸に飛び込んだ。 「よ、かった・・・・・もう・・会え、ないかっ・・・思っ・・・・・」 泣きながら話す言葉は途切れ途切れだった。 けれど、その言葉は真っ直ぐ葉月に届いた。 優しく抱きとめてくれた葉月に、すずの涙は止まらなかった。 「どうした?あ・・もしかして・・・・上手くいかなかったのか・・・・?」 違う、というようにすずは首を思い切り横に振った。 そして葉月から少し離れてその瞳を真っ直ぐ見つめた。 「わたし、ね・・・葉月、くんに・・・話さなきゃ・・いけ、ないこと・・たくさん・・・あって・・・・」 「そうか・・・・・。実は、俺もお前に話があるんだ」 「え・・・?私に・・・・・?」 「ああ・・・。でも、俺の話、少し長くなるかもしれないから・・・・・お前の話から聞く」 「え?・・・あ、うん・・・・」 いざ、聞くと言われるとすずは何から話せばいいのか困ってしまった。 すっかり止まった涙の代わりにすずの鼓動はスピードを上げていく。 ・・・いや、確かに話はあるんだけど・・こうもしっかり構えられちゃうとなぁ・・・・・・・ 「話、あるんじゃないのか・・・・?」 一向に話し出す気配のないすずに、葉月は不思議そうに問いかけた。 「あ、うん!話ね、話はあるの!!」 葉月に促され、ようやく意を決したすずはゆっくりと話し出した。 「あのね・・・わたしたち今日でいよいよ卒業だね」 「ああ・・。そうだな」 「3年間、わたし葉月くんにはたくさん助けてもらって・・・・。とっても感謝してるんだ」 「俺も、お前にはすごく感謝してる・・・」 「相談とかにもいろいろ乗ってもらって・・・・」 「・・・・そうだな」 「・・・・それなのにね・・・・・」 これから言おうとすることにまたしても涙が出てきてしまった。 不安、恐怖、いろんな感情が渦を巻く。 それらが合わさって溢れた涙は頬を伝って落ちていく。 「すず・・・泣くなよ。お前に泣かれると俺、困る・・・・」 「ご、ごめん・・・。でも、聞いて・・・・・。わたし、葉月くんがわたしの応援をしてくれてすごく嬉しかった。いつもわたしの背中を押してくれて、支えてくれて・・・・。振り返るとね、わたしの高校生活は葉月くんでいっぱいなの」 それくらい近くにいたのに。 近すぎたから見失っていた。 「今日を・・卒業式を迎えて・・・・わたしは怖くなったの・・。これからわたしたちはそれぞれの場所に向かっていく。きっと、新しい未来がそこにはある。わたしね、そこには葉月くんにもいてほしいの。」 「え・・・・?」 「自分でもなんで今更・・・って思うんだけど・・・でもね、わたしやっと気づいたの。これから先、私の隣にいて欲しいのは、葉月くんなんだって・・・・。」 あれだけ相談に乗ってもらっといて、都合よすぎるよね・・・? だからこれは、けじめのための告白。 これから新しい一歩を踏み出すために、過去を間違えないために、わたしに必要な儀式。 「どうしても、葉月くんにだけは、わたしの気持ちを知っておいて欲しかったの・・・。ごめんね・・・?」 わがままばかりのこんな女の子で・・・・。 俯いてしまった葉月にすずは誠意を込めて謝罪の言葉を紡いだ。 できることなら、葉月にとっても高校時代の思い出は暖かいものであってほしかったから。 葉月に不用意な負い目を感じて欲しくないがために、すずは明るくこの話を終わろうとした。 それは親友として自分を大切にしてくれた葉月へのせめてもの償い。 「わたしの話はこれでおしま・・・・・」 言い終わらないうちに葉月がすずを腕の中に抱き寄せた。 「葉月くん・・・・?」 「俺は・・・・・ずっとお前を応援してきた・・。でも・・いつからかそれは、表面上だけのものになっていたんだ・・・・・」 「え・・・・・」 「お前が俺に嬉しそうに話しをするたびに、俺の心は2つに引き裂かれそうだった・・・。俺は・・・もうずっと・・お前のことが好きだったんだ」 「・・わたし・・を・・・?」 「もう二度とお前を失いたくない」 葉月の腕に力が篭る。 この腕の中から逃すまいと。 枯れることをしらない涙は次々と溢れてくる。 葉月の言葉に誘われるように。 いつしかすずの手は葉月の背中をしっかり抱きしめていた。 「ほ・・・本当に?・・本当にわたしでいいの・・・?」 「お前じゃなき、駄目なんだ・・・。」 「葉月くん・・・。わたしも、葉月くんがいい・・・」 わたしたち、ここに辿りつくまでにいっぱい時間がかかったね。 でも、それは全部今のわたしたちに必要なものだったと思うから。 これからは2人手をつないで・・・ずっと一緒にいようね・・・・? |