ペンションに到着した頃には辺りはうっすら暗くなり始めていて、空にはいくつかの星も輝いていた。




車を駐車場に止めペンションへと歩いている中、ずっと沈黙を保っていた2人の間に再び浩介が口を開いた。


「・・・会ったばっかりでって、軽く思うかもしれないけど・・・・俺、本気だから」


そう一言呟くと唯の返事を待つことなく浩介はペンションの中に入って行った。





取り残された唯は何となく浩介の後を行くのが躊躇われて、踵を返してナイター営業をしているスキー場の方へ歩き出した。

しばらく歩くとベンチが表れ、唯はそこに腰を下ろした。









どうして浩介の告白を受けることができなかったんだろう・・・。


玲との過去を知っている人だから?


そうではないような気がする。
でも、だったらどうしてだろう。





むしろ歓迎することなのではないだろうか。

失恋の傷を癒すのは新しい恋、この言葉は確信を得ていると唯は思っている。


ならばこの状況のどこに問題があるのだろう・・・・。









「こんなところで寒くないのか?」


思考が堂々巡りをしている中、突然響いた声に唯は驚いて声のした方を向くと、そこには恭一がいた。




「・・・寒い」
「だったらペンション戻れよ」
「ん〜・・・もうちょっと、ね」



唯がここを離れるつもりが無いことを悟ると、しょうがないとでも言うように恭一は首に巻いていたマフラーを唯に渡して隣に座った。



「マフラー、ごめんね。ありがと」
「で、この寒い中ペンションに戻りたがらない理由は何?」



ごく自然に恭一は聞いてきた。
思い切って恭一に相談してしまおうかとも思ったが、玲との思い出を自分ひとりのものにしておきたいという気持ちが勝り、言葉にすることは無かった。


「なんてな。・・・浩介に告白されたんだって?なかなか戻ってこないから様子を見てきてほしいって頼まれてさ」
「そう・・・」

「何をそんなに悩んでるわけ?付き合うか付き合わないかを決めるだけだろ?」




恭一の言う事は最もだ。

今求められている答えは1か0か。



でもそんなに簡単に割り切れない想いが存在するのだ。


この寂しさから今すぐにでも逃れたいという望みと、まだ割り切ることなんてできないという願い。





「ねぇ・・・。例えばさ、どうしても手に入らないものを欲しいと思ったとき、手に入らなくても望み続けることと、諦めて他のものに目を向けること・・・どっちが正しいんだろうね・・・」
「・・・・?」
「ふふ、そんなの決まってるよね。望み続けるなんてできるわけが無い・・・」



「どっちが正しいなんてない、と思う・・・」


恭一が唯の問いかけに答えた。
返事を期待していたわけではなかった唯はこの返答に少し驚きながらも続きを待った。
恭一ならどんな答えを導き出すのか興味が湧いたのだ。




「どうしたって欲しいという思いは止められない。それを諦めることも、思い続けることも間違いなんかじゃないって俺は思うよ」

「だったらあたしはどうすればいいのかなぁ・・・」
「今自分がどうしたいか、それを考えれば自然と答えは出てくるんじゃない?」

「今、どうしたいか・・・」





「ただ一つ言えるのは、無理をしたっていい事なんて何も無いってことかな。
諦められないのに諦めようと無理しても、思い続けなければいけないって自分を縛り付けても、いつか必ず苦しくなる。
だから自分がしたいようにすればいい。 人生に遅すぎるってことはないんだから」






その言葉を聞いて、唯は何だか肩が軽くなったように感じた。






そう、人生には遅すぎることなんてない。
自分が選んで進んだ道に自信を持てばいいのだ。
例え間違ったってやり直す時間はきっとたくさんある。




モヤモヤしていた心が晴れ渡ったように頭の中がスッキリした。
そう、気持ちはいつだって一つしかない。

自分の気持ちに素直に向き合えば、答えは自ずと見えてくるものなのだから――――――







そのとき、突然スキー場の明かりがさらに明るくなったと思った瞬間、ナイター営業のスピーカーからクリスマスソングが流れてきた。



「そうか・・・、今日クリスマスイブだったな」
「そういえば、そうだったね。・・・全然色気のないイブだけどね」


お互い様だろ、と言いながら2人してクスクス笑った。



「恭一、ありがとね。何だかスッキリした」
「・・・ああ」

「あんたもいろいろ大変なのよね。でも美里をあんまり苦しめないでよね」
「!!?」
「あはは。顔真っ赤。やっぱり恭一はからかい甲斐があるわね」






部屋に戻るといづみが待ちわびていたとでも言うようにニヤニヤしていた。


「浩介とのデート、どうだった?」
「・・・もしかして仮病ですか?」
「うふ。お邪魔はしたくなかったからね」


悪びれる様子もなく言ういづみに唯はため息しか出なかった。
唯の心情を察したのか、いづみは真面目な表情になって再び口を開いた。



「でも、誤解しないでね。別に浩介に頼まれたわけじゃないから。
浩介の友人としてきっかけを作ってあげただけ。でも、あたしは唯の友人でもあるからこれ以上は踏み込まない。
ただ、浩介にもチャンスをあげたかったの・・・。余計なことしてごめんなさい」



こういうときに素直に謝るいづみを唯は密かに尊敬していた。
自分の行動に責任を持とうとする真摯な姿は、ある意味唯の理想とするところなのだ。





「いいんです。結局は全部本人次第なんですから・・・」
「・・・・どんな結果でも、唯が納得して出した結論ならあたしは応援するからね」








自分の気持ちというのは、実は一番見えにくいものかもしれない。



玲と別れてもうすぐ1ヶ月。
その間いつだって隣に玲を求めていたように思う。


何度も電話をかけようとした。
でもいつも最後の通話ボタンが押せなかった。






あたしは分かっていたんだと思う。
この恋に幸せな結末は存在しないということを。


あたしが玲に近づけば、玲も、そしてあたしも苦しくなるだけ。

諦めることが最善の道。






だけど―――――――

玲を好きという気持ちはまだこの心に残っている。
それを無理に押さえつける必要も、ない。



無理矢理目を背けようとしなくても、時間がたてばきっとこの気持ちを思い出にできる。
その時、あたしはやっと新しい恋に向けての一歩を踏み出せる。



そうすれば、この先あたしは玲との恋を素敵な思い出として永遠に手にできるのだ。
今無理をすればあたしはきっとこの恋を大事にしまうことはできなくなってしまうだろう。




どんなときでも自分に嘘をついてはいけないのだ。
幸せになるために―――――――













告白を断ったあたしを浩介は温かく受け入れてくれた。
友達としてよろしく、と。





そして旅行の最終日。
クリスマスということもあり、あたしたち5人は旅行から帰るなりケーキを準備しパーティーを開催した。














クリスマス



それは多くの人が浮き足立つ一大イベント。


恋人同士甘い夜を過ごす人もいれば、家族でホームパーティーを楽しむ人もいる。



そしてあたしは聖なる夜に素晴らしい友人たちとの友情を深め、自分自身を見つめ直す、それはそれは素敵なクリスマスを過ごすことができた。




この素晴らしい日に乾杯。