聖なる夜に・・・




「クリスマス?」





クリスマスといえば、みんなが浮き足立つイベントの一つだ。


家族でホームパーティーを楽しむ人もいれば、恋人同士甘い夜を過ごす人、相手がいない友達同士が集まって騒ぐ人たち・・・様々である。


しかし大学生にもなると家族でパーティーをする人は少ない。
あたし、牧原唯もその例に外れない。

かと言って、同級生の子達はみんな彼氏がいるからお邪魔になるし・・・。





「唯?聞いてる?」


いづみの言葉で唯はふと我に返る。



倉石いづみ、旅行サークルの先輩である。

同級生たちは彼氏ができ、サークル活動も少々疎かになっていて、そんな中まじめに(?)参加している唯は一つ上のいづみと親しくなった。




「あ、すみません。・・クリスマスでしたっけ?」


あきれ果てた目で見られてしまった。


「ま、いいわ。で、そうクリスマス。唯何してるの?」


お互い寂しいクリスマスになる事は目に見えている。
しかもお互いに好きだった相手が近くにいるからこそどうにかして気を紛らわせたい、そんな気持ちが素直に共感できるのだ。



「どうせ1人ですよ」
「なら、よかった。だったら一緒に寂しい人たち誘って2泊3日の旅行に行かない?」
「旅行?どこに?」
「もちろん、雪山&温泉よ!」

「乗った!!楽しみだなぁ」
「でしょでしょ〜?しかも友達のペンションだから宿泊費タダ」
「すっごぉい!ますます楽しみ。・・・でもあと誰誘う?」
「そこなのよね〜・・・あたしたち2人とそのペンションの子1人が確定だから〜、唯さぁ誰か適当に声かけといてよ」
「はーい!」






楽しみだなぁ。
ボード久々だから上手く滑れるといいけど。

しかも温泉・・・。



日常生活から離れられるから余計なこと考えなくてすみそう。









クリスマスのイブイブ


旅行当日、集合場所に集まったのは5人。
唯といづみ、いづみの友達でペンションの持ち主、恭一、亮である。


「俺、いづみの友達の岬浩介です。よろしくね〜。あ、みんな一年なんだってね。敬語とか使わなくていいから。名前も呼び捨てで」


ニッと笑った顔は誰もが振り返る美形とまではいかないが、恭一や亮と並んでも見劣ることのないくらいの麗しさだった。
そして誰もが心を許せるような人懐こさが前面に出ていた。

そんな表情にみんなすぐに打ち解けることができたのだ。





ペンションにつくと部屋の鍵を渡された。
あたしといづみさん、恭一と亮、浩介は1人部屋という配置だった。



部屋に入り荷物を整理し終えるとあたしたちはすぐ滑りに行った。






「浩介、すごぉい!うまい〜〜!!」



ちょっと滑ると個人個人のレベルは歴然だった。


毎年シーズンに滑りまくるらしい浩介は飛びぬけて上手かった。
あたしは何度か滑ったことがあるのでそこそこ。
そしてあたしよりちょっと上手い恭一。
可もなく不可もなく、といった感じの亮。



そして意外だったのが、いづみさんだ。
雪山に行こうと言うくらいだから上手いのだろうと勝手に思っていたのだが・・・。


下手だった。
何でもウィンタースポーツの経験は皆無らしい。


「だって雪山に行ってみたかったのよ。やればできると思ったし」
あっけらかんとしたものである。



個人差がありすぎるのであたしたちは二手に分かれることにした。



標準グループ:唯、恭一
初心者グループ:いづみ、浩介(いづみのインストラクター)、亮




「じゃあ疲れたら各自切り上げってことで。夕食は7時からレストランだからね」
「はぁ〜い!」




そう言ってあたしたちは初心者用のゲレンデに向かう3人を見送った。


それにしても・・・
「亮、別にこっちでもよかったんじゃないの?」


あたしと大して変わらないくらい滑れるんじゃないの?
いづみさんと浩介は仲がいいから、いにくくないのかな・・・。


「お前知らないの?亮、いづみさんのこと好きなんだぜ」
「えぇっっ!!?そうなの?」



前に、玲と一緒にレストランで百合と二人で歩いているところを見て以来、百合を好きなんだと思ってた。
だから少しだけ、期待、してたんだ。
百合は亮と付き合ってるんじゃないかって・・・。


バカだな・・・。
亮がこの旅行に来てる時点でそんなことあり得ないのに――――――




「おい?唯?」
「・・・え?あ、ごめん、なに?」
「・・・早く滑ろうぜ!あんま遅いと待ってやんねーからな」



そう言うと恭一は颯爽と滑り出した。
そして追いかけるように唯もボードに力を入れた。












滑り終えて部屋に戻るとそこにはすでに帰ってきていたいづみの姿があった。


「あ〜〜〜〜疲れた!でもやっぱり楽しいね。いづみさんはどうだった?」



あたしの問いかけに返事が返ってこない。
いづみさんの方を覗きこむと妙に膨れっ面。


「ちょっとどうしたんですか〜?美人が台無しですよ!」
「だって、ボードって思ってたよりもすっごい難しいんだもん。もっと楽しいものだと思ってた。明日もこれやるのかと思うと・・・」
「・・・まぁ人には向き不向きってのがありますからね・・・。だったら明日街に降りてショッピングとかしてみます?」


言った瞬間いづみの顔はキラキラと輝いた。が、すぐにまた暗い顔になった。



「でも唯に悪いよ。だってせっかくの雪山だよ?滑りたいでしょう?」

「でも、せっかくだから街の雰囲気とか見てみたいし。それにまだ一泊あるんだから」


「じゃあ俺が街の案内をしようかな」



突然の第三者の声に驚き後ろを振り返ると、ドアのところに浩介が立っていた。



「あ、ごめんね。ドアが開いてて2人の話が聞こえちゃったもんだから・・・」


「浩介!ホントに付き合ってくれるの?」



またしてもいづみの顔はキラキラしていた。
くるくる変わる表情はきっと誰から見ても好感がもてるだろう。
しかもその可愛らしい言動つきだ。

嫌といえる男がいるとは思えない。




「ああ、どうせここにはシーズン中入り浸ってるから構わないよ」
「さぁっすが浩介!明日が楽しみっ。あ、もう夕食の時間じゃん早くレストラン行こうよ!」
「そうだった。俺それ言いに来たんだよ。さ、唯も行こう」


そうしてあたしたちはレストランに向かった。






レストランに着くと恭一と亮は既に席についていた。そして唯はその時初めて思い出した。





そういえば、亮っていづみさんのこと好きなんだっけ・・・。


明日のこと伝えたほうがいいのかなぁ。

でも伝えたところで亮の性格からして止めたりはしなさそうだしなぁ。
う〜〜〜ん・・・・・。
まぁでもあたしも含めて3人で行くわけだし・・・。





そんなことをぐるぐると考えていたら、結局唯は夕飯を味わうことなく食べ終わってしまった。
普段なかなか食べることのない高級料理だったことにも唯は気がつかなかった。