始まりの日




これは、どこにでもいるような、そんな平凡な女の子に焦点を当てたお話。
物語のスタートは2006年、春。
桜が咲き乱れる中、行われた、入学式。
彼女はここ東斗大学の新入生である。



ん〜〜〜〜〜いい天気。入学式日和ね!」

地元を離れて一人暮らしを始めて早一週間が経とうとしていた。


そりゃぁ最初は寂しかったけど、慣れてくるとその中にも楽しさが見つけられる。
何をしていても全部自分で決めることが出来る。
それはずっと周りの目を気にして過ごしてきたあたしにとっては大きな変化だ。

そんな風に心境が変化した頃、ついに、やっと、入学式が行われる。


「美里!」

不意に名前を呼ばれて彼女は振り返る。
そこには先日の事前ガイダンスで知り合ったばかりの友人がいた。

「唯じゃん。おはよ〜」
「おはよ!もう受付した?」
「ううん、今から。唯もでしょ?」
「当然。さ、行こう?」
そして2人は再び歩き出す。


彼女、牧原唯は女のあたしから見ても美人である。
きっともててたんだろうなぁ


目の前には溢れんばかりの人。
それは美里と同じ新入生と、その新入生を狙う(?)サークルの勧誘活動だ。
この光景を見ているだけで、美里の心は躍り出す。




すごぉ〜〜い。あたしは何のサークルに入ろうかな?




「ね、美里。あたしね、バドミントンサークルに入ろうと思うんだ」


突然の唯の言葉に首をかしげるあたし。


「だってせっかくの大学生活、やっぱり楽しくしたいじゃない?」


意味ありげに微笑む唯。
その表情で美里は唯の言わんとしていることを察した。

そう、案外この2人は似たもの同士なのだ。

「なるほどね。男か。でもそれならテニスサークルとかでもいいんじゃないの?」
「ダメよ。テニスなんて日焼けしちゃうじゃない!」


あたしは、ぷっと吹き出しそうになってしまった。そんなとこまで考えてるなんて。


「美里だってせっかくの大学生活、彼氏の1人や2人欲しいでしょう?」
「あたしは1人で十分よ。でもそうね、出会いは…欲しいわよね」
「よし!じゃぁきまりね」
「入学式が終わったら勧誘活動ぐるっと見て回ろうよ!」
「そうね。そうしよう!」


あたしだってせっかくの大学生活、楽しく過ごしたい。そんな気持ちが膨らんだ。
別にバドミントンサークルに入ったから彼氏ができるって訳でもないだろけど、
バドミントンサークルにはそんな雰囲気を感じられたのだ。



入学式は、正直退屈だった。
馬鹿でかいホールに集められた新入生たちに向かって、どこぞのお偉いさん方が
今後の抱負を語っている。
これを真面目に聞いている人たちは一体どれだけいるのだろうか?
そんなことを思いながらあたしはいつの間にか眠りの世界に入ってしまっていた。



「さ、じゃあ勧誘活動の見学に行きますか!」


入学式も終わり、あたしと唯は並んで歩き出した。5歩も歩けば、人に捕まる。



「ね、ね、彼女たち!ウチのサークル見てかない?美人さんにはサービスするからさ」



一体何のサービスをしてくれるのか…。半ばあきれて眺めていると、
唯がそのサークルに近づいていく。



「何のサークルなんですかぁ?」


男は満面の笑みを浮かべて答える。


「旅行サークルだよ。別名、遊び部。まぁとにかく楽しもうっていう趣旨のサークルさ」
「楽しそう!あたし旅行とかってけっこう好きなんですよね〜」
「じゃあとりあえず新歓コンパだけでも来る?来週あるからさ」
「行きます行きます!」


この一連の流れをあたしはただ聞いていた。というよりは口を挟む隙がなかったのだ。

その団体と離れてから、唯はあたしに向かって話し出した。


「あたしあのサークルに入る!」
「え!?だってまだバドミントンサークル見てないよ?」
「だって何だか面白そうじゃない?美里も一緒に入ろうよ〜」


ふぅっと溜め息をついてから、


「じゃあとりあえず新歓コンパは付き合うよ。で、唯このあとどうするの?もう勧誘活動見てまわる必要もないでしょ?」
「えぇ!?せっかくなんだから全部見て行こうよ!」
「ぜ、全部?まぁ・・・いいけど」
          
結局その後、特に興味を引くようなサークルはなく、唯は旅行サークルに入る決意を固めたようだ。