再スタート




冬が訪れクリスマスの予定を立てようとあたしと玲は街にある喫茶店に来ていた。



「隣町の大きなツリーを見に行くってのもいいよね。あ〜でもドライブも捨てがたいし・・・」

「まぁまだ日はあるんだしゆっくり考えればいいよ」

「こういうのは早めに決めたほうがいいの!計画倒れになったらショックじゃない」

「はは、じゃなるべく早く決めようか」

「そうそう」


あたしは再びクリスマス特集のページに視線を落とした。
ページをめくると、クリスマス使用の夜景を楽しみながらディナーができるというレストランを見つけた。


「ねね、ここなんていいんじゃない?」





顔を上げて玲を見ると、玲はまるで外を見て固まっていた。
釣られて唯も外を見る。
そこには百合と亮が肩を並べて歩いていた。
カップルだらけの街に不自然なく2人の姿があった・・・。



「あ、百合と亮。へ〜、あの2人付き合ってるのかな・・・?」



あたしの問いかけにも気付かないのか玲はただひたすら2人の姿を瞳で追っていた。






その瞳であたしはあるシナリオができてしまった。
決して当たって欲しくはないシナリオ。



けれど唯は聞かずにはいれなかった。






「・・・もしかして、玲の大切な人って・・・百合・・なの?」


突然のあたしの言葉に一瞬驚いたように玲はあたしを見た。


「・・・ついに唯にもばれちゃったな。気まずくならせちゃまずいと思って隠してきたのに」





あたしはもう言葉が出なかった。



百合は玲が好きだといっていた。
諦めるといったってそんなに簡単に諦められるほど中途半端な気持ちでないということは以前
百合と話をしたときにはっきりと分かっていた。


・・・今、玲が百合のところに行ったら、間違いなく2人の誤解は解けるだろう。
お互いに相手にとって必要なのは自分ではない、という誤解が。



しかし2人の気持ちを知っているのは唯だけだ。
つまり自分さえ何も言わなければ2人はこのまま何事もなかったように過ごしていくだろう。
幼馴染として。自分さえ、目をつぶってしまえば――――









「ばかっ!!」

「玲はちゃんと自分の気持ちを伝えたの?伝える相手がいるのに伝えないなんて そんなのダメだよ!!怖いのは分かるけど、いつまでも逃げてたら本当に大事なものまで無 くしちゃうのよ!気付いてからじゃ遅い!失ってから気付いても遅いの!どうして彼女の気 持ちを知ろうとしないの!?どうして一歩踏み出そうとしないのよ! もっと自分の気持ちを大事にしてよ・・・」



あたしは苦しさと悲しさから一気にまくし立てた。
玲は突然声を荒げたあたしに驚きながら、ただ聞いていた。



しばらくの沈黙の後、玲が口を開いた。



「唯・・・。そうだよな、俺まだ何にもしてない。百合に気持ちを伝えてもいないし、 百合の気持ちを知ろうともしてなかった。今の関係を壊すのが怖くて、ずっと・・・逃げてたんだ。 幼馴染という安定した関係に」


玲はさらに続けた。


「唯、今まで俺に付き合ってくれてありがとう。でも俺、やっぱり忘れることなんて出来なかったよ。 何で忘れられないのか分かった。俺はまだ何もしてないからだ。忘れる以前に忘れなければいけ ないものがないからだ。だから俺、百合に伝えてくる。たとえどんな答えが返ってきても、俺頑張って みるよ。いろいろ・・・ありがとうな。好きになってくれて本当にありがとう。自分勝手で心苦しいけど もう俺のことは忘れて欲しい」

「玲、あたしね変わったの。あなたに出会って、本当の自分が動き出したの。だからあたしのことは 何も心配しないで。玲は玲のことだけ考えて。前にも言ったけど、あたし玲に一度救われたんだよ。 本当の自分を見つけ出せたの。あたし、玲を好きになれて本当によかったよ? ずっと苦しんでたあたしを救ってくれた。あたしにはそれだけで十分。本当に、本当にありがとう」

これは、あたしの本心からの言葉。
あなたに出会えたことだけで、あたしは幸せだから。


「さ、早く行って。早く本当の気持ちを彼女に・・・」


「ああ。ありがとう。俺こそ唯に出会えて本当によかった。・・・じゃあ俺行くよ」


そういって玲は駆け出した。















人の想いはいずれ風化する。
それは悲しくても事実。
なぜならあたしたちは生きているのだから。

笑ったり、泣いたり、怒ったり、これからもたくさんするだろう。
そうやってあたしはこれからの時間を生きる。


きっとこの先あたしはまた恋をする。

彼を忘れるわけではない。
玲を忘れるわけではない。

気持ちとは新しく生まれるものであって、昔の気持ちと引き換えな訳ではない。
良くも悪くも想いは風化するのだ。
そして新しく生まれた気持ちであたしは新しい恋をする。

そうやってみんなこの世界を生きていくのだ。

だからこそ涙とは尊いのである。
大切な人を思って流す恋水。

あたしはこの先も恋水を流すだろう。
大切な、誰かを想って――――












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・・・頑張ったつもりです。
このお話は本編を書いていたころからうっすら考えていました。
が、実際に書き出すと話が変わる変わる(オイ!)
散々悩んだ挙句、こんな形のお話になりました。
人によって受け取り方は違うんだろうなと思います。
結局は、唯が押し殺していた「自分」をもう一度生き直すといった感じです。(それだけ!?)
ちょっとでも何か感じ取ってもらえたら幸いです。