闇で願う幸せ
君は知らない。この胸の片隅に残る深い闇の塊を―――――― 「葉月くん!あのね・・・今度の日曜、森林公園でお散歩しない?」 屈託のない笑顔で彼女がフワリと誘ってくる。 「行く」と即答すると、こぼれんばかりの笑顔が返ってくる。 僕の大好きなその笑顔。大好きな声。彼女の全てにただ愛しさが募り、どんどん惹かれていく。 その度に大きくなるこの胸の小さな小さな不安。 前までは少しでも近づきたいと願っていた。 その瞳に映る時間が少しでも長くなるようにと。 けれど近づけば近づくほどに痛感する気持ち。 「手に入れてしまったらもう手放せない」 失えば自分が壊れてしまうから。 かすかに聞こえていた警告のサイレン。それは日に日に強まっていく。 『これ以上近づいてはいけない』 遠い日の教訓。 手に入れてしまったら次に訪れるのは失う日。 それを自分は強烈に恐れている。 出会いは必ず別れと表裏一体だから。 あの日の傷を癒しきれないままの自分。この傷を癒せるのはあなただけ。 でも、もし拒まれたら? あの物語を話しても思い出さなかったら? 答えを知るのが恐い。 それならいっそのこと手に入れない方がいい、弱い自分がそう告げる。 そうすれば失う日など永遠に訪れないから。 今までだってずっとそうやって生きてきた。 けれど触れてしまった温もりに心が乱される。限りを知らない欲望は貪欲に君を求める。その全てを手に入れようと。 手に入れた先に訪れる残虐さを無意識に消し去るほどに・・・・。 無邪気に手を差し出してくる君に僕ができることは何だろうか。恐れを抱いたままの僕に君がしてくれることは何だろうか。 向き合うことを選んだら、その先には何が待っているのだろう。 不安。焦り。恐怖。 背負うものが大きすぎて身動きが取れなくなってしまう。 君さえも失ってしまいそうになる。 だけど、やっぱり君は笑うんだ。 こんなどうしようもない僕だけど、君が相変わらず微笑んでくれるから、語りかけてくれるから。 僕は結局君を求めてしまう。君を欲してしまう。 そんな想いを止める術を僕は持たない。 だから強くなりたい。君の全てを受け入れられるように強く。 たとえどんな未来が訪れても、それが2人の未来だと納得できるほど。 手を伸ばさずにはいられないから。 もし君が僅かでも僕を想ってくれているのなら、どうかいなくならないで。側にいて。 それが僕のたった一つの願い。 そしてこの深い闇から抜け出せる唯一の方法。 君だけが僕の幸せ。 |