指定席




高校3年生の夏休み。
受験を意識しつつも最後の羽休めとして大いにはしゃぎたい、そんな夏。
もちろんわたしもそんな世間の高校生に漏れることなく、適度に遊びの予定を組んでいた。



そんな中でわたしが一番楽しみにしていた遊園地。
この時期の遊園地はナイトパレードをやっていて、いつもより少しだけ長く一緒にいることができる。
毎年夏休みには決まって遊園地に行っているけれど、やっぱり今年も少し落ち着かない、けれど心地いい気分に包まれていた。




ちょっと早めに家を出てゆっくり待ち合わせ場所に向かう。吹き抜けていく風は生暖かくて日差しも強い。夏を感じさせる空気は、受験生という名目上、普段屋内にばかりいるすずにとって不快感よりもこれから始まる幸福の時間を思わせるかのように歓楽を誘う。





すずは日向を進んで歩き、真夏の息抜きを満喫しながら歩みを進める。



ふと通り過ぎる人の中に初々しい高校生カップルを見かけた。
2人の距離間はどことなく不自然でよそよそしいけど、お互いに相手の様子を窺っている。
そんな雰囲気はすずの思いを自身の記憶に戻らせていく。






最初の頃はそっけない態度に何度くじけそうになっただろう。
初めてのデートは会話も続かなくってすごく落ち込んだっけ。でも帰り際に「楽しかった」と言ってくれた一言がとても嬉しくて・・・。わたし、次に繋げる勇気が湧いたんだ。
そうやって回を重ねていった2人のデート。



こんな風に出掛けるのはこれで何回目になるんだろう?
1年生の頃は「○回目のデートだ!」なんて数えていた。
2年生になると誘われることも増えてきて、その喜びに舞い上がった。
そして今、昔のような初々しい緊張感は薄れ、変わりに大きな安心感がある。
あの頃よりもあなたのことをたくさん知っているし、あの頃よりももっとあなたのことを好きになっている。
これは私が高校生活で手にしたかけがえのないもの。





数え切れないほどいろんなとこに出掛けた。
その度にわたしの中で大きくなるあなたの存在。あなたのしぐさ一つひとつにドキドキした。
たまに見せる切なげな表情も、昔は心を痛めたけど今は包み込んであげたいと思う。




側にいたい。側にいて欲しい。








わたしって欲張りなのかな?
あなたを知れば知るほど、近づけば近づくほど「もっと」と願ってしまう。
あなたの一番近くにいる人がわたしでありたいと強く思ってしまう。



いつだってあなたはわたしに微笑んでくれるから、その奥に一瞬よぎる色を見落としてしまいそうになる。
あなたの本当の気持ちを引き出したい。
何を想っているの?何を隠しているの?


あなたの全てを見たいと貪欲になってしまう。









日曜の人ごみはいつもより緩やかで、人通りの奥にもう待ち合わせ場所にいる相手を容易に見つけさせた。遠目でも決して見間違うことなどない。
すずは彼の元へと足早に駆け寄った。



「ごめんね、お待たせ!」


そう言うと相手は穏やかな笑顔を浮かべ、群集の視線を奪う。
そんなもの目に入っていないかのように、ごく自然に手をとって歩き出す。








そんな2人を偶然見かけたクラスメイトたちは囁きあっていた。


「うわー!手繋いじゃってるよ!!さすがは学園の公認カップル」
「あ、本当だ。・・羨ましいね、ああいうの。2人でいるのがすごく自然に見えるっていうか・・・」
「・・・よし!あれを目指してアタシ達もがんばるわよ!」
「えぇ〜!?わたしには無理だよ・・・」
「何言ってんのよ!『為せばなる』よ!こうなったら帰って作戦会議よ!!行くよ!」
「ま、待って〜」





夏休みにも関わらず、2人のデートの様子は瞬く間に学園内に広がった。
・・・・知らぬは本人ばかりなり。