プロミス
「王子は、必ず迎えにくるから。・・・・約束」 そう少女に告げてからもう何年たっただろう。 教会はあのときのまま何一つ変わっていない。 だけど・・・そこにもう姫はいなかった・・・・。 はばたき市に帰ってきてから、俺はすぐにこの教会を訪れた。 彼女に会うために。 彼女との約束を果たすために。 足を踏み入れた教会は相変わらずで、どこか懐かしい匂いがした。 あたかもそこにあの少女がいるかのように。 けれど実際には少女はいなかったのだ。 それでも最初は、明日は彼女が来るのではないかという希望も抱いた。 だがそれも半年も続けば簡単に砕かれてしまった。 中学に行っても目は自然と彼女を探していて・・・けれどその存在を見つけることはなく、肩を落とした。 無理もない・・・あんな子どもの頃の約束を、忘れるなって言う方がおかしいんだ。 きっと彼女はどこかの空の下で今日も元気にあの笑顔で笑っているはずだ。 それを見ることはできなくても、俺にはあの思い出がある・・・・。 あの美しく、かけがえのない思い出が。 それだけで十分じゃないか・・・・・・。 そう考えるようになり、自分なりに果たされなかった約束を受け入れようとしていた。 それが一変したのがあの入学式の日だった。 俺は何かの節目のときには必ずあの教会を訪れていた。 過去の思い出に今を一つひとつ報告するかのように。 あの日もそうだった。 高校の入学式が始まる前に俺は教会に向かった。 通いなれた道のりをいつもの通りに。 けれどそこには先客がいた。 その後姿を見た瞬間、背筋がゾクリとした。 まさか・・・・そんな想いが過ぎった。 もっと近くで見ようと近づくと、その人影は突然向きを変え、俺たちは正面衝突した。 そして倒れこんだ少女の顔を見た瞬間、確信した。 間違いない、彼女だと――――――― 戸惑いながらも手を差し伸べると、彼女は素直に俺の手を取った。 鼓動が早くなり、緊張感が走る。 何を言えばいい? 何から話せばいい? そんな俺の心配は杞憂に終わった。 彼女の残酷な一言によって。 「すみません、先輩」 ・・・・先輩? 覚えて・・・いないのか・・・・? 激しく落ち込んだ気持ちを表に出さないように「俺も1年」と答えると、彼女は当然のように自己紹介をし出した。 教えられた名前はやはり思い出の彼女と同じ名前だった。 あの約束を心の糧にしていた俺にとって最も卑劣な現実。 約束を忘れてしまった姫との再会。 最初はこの出会いを恨んだ。 こんなことなら会いたくなかったと―――――――― せめて記憶の中の綺麗な思い出として留めておきたかった。 残酷なまでに少女の笑顔は眩しくて、眩しすぎて・・・・・俺は真っ直ぐ彼女を見ることができなかった。 けれどそれでもやっぱり姫は俺を魅了した。 会えなかった空白の時間が嘘のように、彼女は自然と俺の中に入ってきた。 彼女の隣は居心地がよくて、俺は求めずにはいられない。 だから俺はこの現実に感謝したい。 彼女と引き合わせてくれたこの事実に。 たとえ彼女が覚えていなくても、俺の中にはあの約束が今も生きている。 いや、この出会いによって生き返ったんだ。 再会が運命だと信じたいから。 この場所で再び彼女に出会えたことを。 今は偶然でもいつかこの再会は運命だったと言えるように。 そしてそのチャンスを与えられた俺の人生も決して捨てたものではないと思えるから。 |