凍らない胸の内




――――――応援するから――――――


それが始まりの言葉だった。








入学式の日に出会った少女は昔一緒に遊んでいた女の子だった。
向こうは覚えていないみたいだったけど。
変わらない笑顔、変わらない愛らしさ。
すぐにお前だってわかった。
あのときから、俺の中ですでに特別な存在だった。





でもそのことに気づけずにいた俺には、戸惑いばかりが生まれた。



なぜ、あいつの姿を無意識に探しているのか。
なぜ、電話が鳴るたびに胸が震えるのか。




日に日に大きくなる漠然とした不安。
その度にあいつのことを考える時間が長くなる。












そして、あの日。
気がついたら俺は彼女の家の前にいた。
どうしてそこにいたのか覚えていない。
ただ、気がついたらそこは彼女の家だった。

しばらく佇んでいると、遠くから人影が現れた。
聞こえてくる声とともに。
聞き間違えるはずなどない彼女の声。

しかし、話し相手は紛れもなく男の声だった。
俺は隠れることもその場を離れることもせずにいた。
いや、本当は何も考えられなかったんだ。


彼女の交友関係は広い。
男友達だって俺が知っているだけでもたくさんいた。
だから、彼女がそのうちの誰かと遊んでいても何の不思議もなかった。



二人の手が重なっているのを見るまでは・・・・。



俺が動けずにいると、男の方が俺の存在に気づいた。
そして次の瞬間、あいつの瞳に俺が映った。




逃げるようにその場を去った。
無我夢中で歩いた。
そんな俺の歩みを止めたのは携帯電話の着信音だった。






夕日に染まる海で彼女との待ち合わせ。
会って早々に何か言いたげなその様子から、分かってしまった。

あいつに好きなヤツがいるんだってことが。



そして俺は決めたんだ。
彼女のことを応援するって。


その気持ちは本心だった。

友人として彼女のことは大切だったし、幸せになってほしいと思っていたんだ。



でも俺はその奥にある自分自身の本当の気持ちに気づけなかった。
もし気づけていたなら、こんなに苦しい思いを味わうことはなかっただろうに・・・・。






「応援するから」


俺のその言葉にあいつは本当に嬉しそうに笑っていた。
だから俺まで嬉しくなったんだ。








でも、それが誤りの始まり。
あいつに相談を持ちかけられる度に、俺の心は少しずつ歪んでいった。
俺の奥で眠っていた感情が目覚め始めてしまった。



どうして今更・・・・・・

何度も悔やんだ。
今更彼女への気持ちに気づいても、もう何もかもが遅い。

無感情に話を聞くことも、苦しさから逃れるために彼女と距離をとることも、どちらももうできない。



遠ざけたいけれど、離したくない――――――




そんな身勝手な感情でむやみに彼女を傷つけたくない。
いっそのこと彼女への想いの全てを凍らせてしまいたい。


そうすれば、俺は再び安らかな気持ちで彼女の側にいることができるのだから・・・・・。