瞳
あたしの大好きな瞳。 それは深くて透き通るような緑。 でも、そこに映るのは・・・あたしじゃない。 葉月珪。 この学校で彼を知らない人はいないだろう。 いや、このはばたき市でも彼を知らない人なんているのだろうか? 人気沸騰中の高校生モデル。 それが彼の代名詞。 あたしが彼を知ったのは中等部のときだった。 そのときにはすでに人を寄せ付けないオーラを出していた。 だからあたしも遠くから彼を見ているだけのファンの1人。 それでもいいって思ってた。 あの子が現れるまでは――――― 高等部から編入してきた彼女。 極稀にしかいない編入生はそれだけで周りの注目を集めていた。 愛らしい姿に心奪われる者も少なくなかっただろう。 あたし自身、特に話したこともない彼女だったけど、好感を持っていた。 でも・・・まさか、「あの」葉月珪までもが彼女に興味を示すなんて思わなかったのだ。 誰にも、何にも興味を示さないと思っていた彼が、唯一側にいることを許した存在。 何故だか理由はわからない。 でも彼が彼女を見るその瞳は最初から別格だった。 あたしが特別な瞳で彼を見ているからこそ気づいてしまうその変化。 ・・・・彼の瞳に優しさが見える。 そして気がついたら彼の隣にはいつも彼女の姿があった。 2人でいることがあまりにも自然で、1人でいるとかえって違和感を覚えるほどだった。 どうして彼女だったのだろう? 顔?性格? いや・・・そんなものじゃない。 きっと、彼の気持ちはそんな軽いものなんかじゃない。 だって彼の、彼女を見る瞳には、時折影も見えるから。 嬉しさや喜びの裏にある悲しみや寂しさ・・・その色が見える。 だからきっと彼はあたしが考えるよりももっと大きな、もっと深い気持ちで彼女を見てる。 それが、わかってしまったから・・・。 あたしの3年越しの片思いは突然やってきたあの子にあっさりと奪われてしまった。 悔しくないと言えばウソになる。 悲しくないと言えばウソになる。 それでも・・・・・彼のあの瞳を見てしまったら、あたしにはもうどうすることもできない。 ただ麗しい王子と愛らしい姫が、この先引き裂かれることのないように祈るだけ。 それが、あたしが彼にしてあげられるたった一つの贈り物だから。 |